エチオピアの楽師、吟遊詩人を追って―音楽を職能に生きる者たち―

川瀬 慈(かわせ・いつし)
1977年岐阜県生まれ。映像人類学者。国立民族学博物館/総合研究大学院大学准教授。
エチオピアの楽師、吟遊詩人の人類学研究、民族誌映画制作に取り組む。同時に人類学、シネマ、アートの交差点から創造的な叙述と語りを探求する。代表的な映像作品に『ラリベロッチ』『僕らの時代は』『精霊の馬』『Room 11, Ethiopia Hotel』(イタリア・サルデーニャ国際民族誌映画祭にて「最も革新的な映画賞」受賞)。共編著に『アフリカン・ポップス!——文化人類学からみる魅惑の音楽世界』(明石書店)、『フィールド映像術』(古今書院)、近著『ストリートの精霊たち』(世界思想社)が第6回鉄犬ヘテロトピア文学賞を受賞。

川瀬慈

はじめに

 エチオピアの音楽職能者は、時代の変遷の中で様々な役割を担い生きてきた。弦楽器マシンコを弾き語るアズマリは、王侯貴族お抱えの楽師、戦場で兵士を鼓舞する係、歌を通して為政者を揶揄する道化、権力に抗うレジスタンス、祝祭の場に哄笑の渦をまき起こすコメディアン、庶民の意見の代弁者、世相を斬る評論家等、多様な顔を持ってきた。一方、いにしえから謎の多い集団とされてきたラリベラは、早朝に家々の軒先で歌い、乞い、家の者から金や食物を受け取ると、その見返りとして祝詞を与える。一種の門付(かどづけ)を行う吟遊詩人であり、生のはかなさを説く語り部であった。

 社会的には後ろめたい存在に位置付けられがちな、これらの歌い手たちが、その声と歌の力によって空間を異化し、支配する。聴き手との豊かなやりとりのなかで、歌い手たちが、芸能をしたたかに展開させる様子に私は強く惹かれ、エチオピアで長年のフィールドワークを行ってきた。

 翻って、ここ日本では、自分のよりどころとなるような社会の基盤が大きく揺れている。政治、経済は庶民の生活を置き去りにし、ますます社会は不透明になっていく。多くが生きづらさをかかえた時代だ。乱世を、激しく移ろいゆく世界を、そのしたたかな歌と声で生き抜いてきたアフリカの音楽職能者が、我々の目の前にいるとしたら、どんな歌を歌いかけてくるのだろうか。

 音楽職能者との長年の交流を経て、私と彼ら、彼女たちの関係は研究者と被調査者というような、小ぎれいかつ、一枚岩な関係では語れないものになっている。本連載で登場する人物と私との関係性のありかたや、話の対象に基づき、それぞれの話の語り口を変えてみようと考える。それは、誰かに語りかける手紙のようであったり、時には論文調であったり、拙い短編小説や散文であるかもしれない。そう、これらの歌い手が歌いかける相手に合わせて歌詞の内容や歌い方を柔軟に変えていくように。

 アフリカの一筋縄ではいかない歌い手たちと私との親密な交流をベースに、彼ら、彼女たちの生きざま、活動とその変容について写真や動画などを盛り込みつつ紹介していく。そして音楽、芸能のありかたをアフリカの地平から相対化してとらえ、考えてみたい。これらの歌い手たちが、欧米をはじめ、アフリカ外の世界において活動を展開させる近年の様子についても述べるつもりだ。

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